外国人人権法連絡会は2026年1月8日付で、三重県で問題となっている県職員の募集につき、日本国籍を要するという「国籍条項」を復活させる動きと知事の発言の見直し、撤回を求めるため声明を発出しました。
合わせて、同日に一見勝之(三重県)知事に送付しました。
ぜひご一読ください。
三重県知事による国籍要件の見直し発言の撤回を求める声明
三重県知事 一見勝之 様
2026年1月8日
外国人人権法連絡会
共同代表 田中宏・丹羽雅雄
私たち外国人人権法連絡会は、外国人および民族的マイノリティの人権を保障し、人種差別を撤廃する法制度の実現に取り組んでいるネットワーク団体です。
2025年12月25日、三重県の一見勝之知事は記者会見において、「情報漏洩を防止する観点から国籍要件を見直す必要があるのではないか」と述べ、県職員の募集につき日本国籍を要するという国籍条項を復活させる方向で、その是非についての県民アンケートの実施を表明しました。
1 公的差別の表明かつ差別の煽動
三重県知事は、国籍要件見直しの理由として「情報漏洩」をあげていますが、三重県の外国籍職員による当該行為は一切確認されておらず、立法事実自体がありません。従って、知事の発言は、外国籍職員が情報漏洩を行なうであろうという偏見に基づくものであり、偏見を根拠とする「公務就任権」という人権の制限は、公的機関による国籍を理由とする差別の表明そのものです。
さらに、三重県知事という公人が偏見を公的な場で発信し、差別的取扱いをすることは、外国籍住民に対する偏見を拡散させ、差別を煽動するものです。2025年夏の参議院選挙前後から浸透した「日本人ファースト」を三重県自らが実践し、助長しているといわざるをえません。
これまで広く外国籍住民の公務就任権を認めてきた三重県が、このような差別的取り扱いを実施すれば、他の自治体にも同様の取組を促す引き金となる恐れがあります。
2 国籍要件は外国籍者の公務就任権という人権の侵害
日本で生活し、共に社会を担っている外国籍住民が公務員になることは、本来、憲法22条で保障されている職業選択の自由の一部であり、公務員になることができる権利(公務就任権)として保障されるべきものです。
国連の人種差別撤廃委員会は、2018年の日本に対する審査後の「総括所見」において、旧植民地出身の外国籍者の地方参政権に言及し、国家公務員への就任も含めた公務就任権の保障を求めています(パラグラフ22)。また、他の外国籍者についても、これに準じて公務就任権を認めるよう勧告しています(パラグラフ33-e)。
なお、労働基準法3条(均等待遇)も、「使用者は、労働者の国籍、信条…を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について差別的な取り扱いをしてはならない」との原則を掲げています。
しかし、戦後日本では実際には公務員への就任に国籍要件が広く定められてきました。外国籍住民は、原則として国家公務員にはなることができず、地方公務員の就任についても広範に制限されてきましたが、これに抗して、国籍要件の撤廃を少しずつ勝ち取ってきたという歴史があります。三重県でも1999年に多くの職種から国籍要件を撤廃したのです。
3 法治主義・法の支配の欠如
国籍要件に関しては手続上も、公務就任権という重要な人権の制限を、法律の明文によらずに70年以上も続けているという問題があります。内閣法制局第一部長回答(1953年3月25日)は、「法の明文の規定が存在するわけではないが、公務員に関する当然の法理として、公権力の行使又は国家意思の形成への参画にたずさわる公務員となるためには、日本国籍を必要とするものと解すべき」としました。 法の明文の規定がないのに、人権を制限することは法治主義に反します。
現時点では三重県の公務員は49職種のうち44職種には「国籍要件」がなく、外国籍住民も採用試験を受験することができます。しかし、問題は、受験可能かどうかを、法律や条例ではなく、知事が独断で決められるということです。今回は、受験をさせないことも知事が独断で決定できる、という問題になっているのです。「法治主義」や「法の支配」が貫かれていない状況は、「外国人は、煮て食おうが焼いて食おうが自由」(池上努・法務省入国管理局参事官『法的地位200の質問』(1965年))との姿勢が現在でも正されていないことを示しているといわざるをえません。
4 国籍要件復活は三重県人権条例違反
三重県は1997年、全国に先駆けて「人権宣言」を県議会で決議し、「人権が尊重される三重をつくる条例」を制定しました。同条例を全面改正して生まれたのが「差別を解消し人権が尊重される三重をつくる条例」(2022年5月)です。同条例2条は、「不当な差別」とは、「人種等の属性を理由とする不当な区別、排除または制限であって、あらゆる分野において、権利利益を認識し、享有し、又は行使することを妨げ、又は害する目的又は効果を有するものをいう」とし、「人種等の属性」のひとつとして「国籍」を明示しています。
県の条例が、「国籍」による差別を禁止している以上、「国籍要件」を見直すとの知事発言と条例との矛盾は明らかです。また、条例25条は、人権施策について調査審議するため、知事の付属機関として三重県人権施策審議会を置くとしていますが、今般の問題で、この審議会で審議されたかどうかは不明です。「国籍要件」の見直し、という重大な人権問題について、審議会での十分な審議が必要です。
5 県民アンケートは当事者排除、差別の流布
県民アンケートについて、「[2026年]1月26日から2月16日には、県民1万人へのアンケートを実施し、その結果を踏まえて検討を進める。外国籍の人はアンケート対象外」と報道されています(「外国籍職員の採用見直し、三重県知事が表明 識者は『根拠がない』」朝日新聞デジタル[2025年12月25日])。当事者である外国籍住民を対象から外すこととなり、「私たちのことを私たち抜きで決めないで(Nothing About Us Without Us)」という、政策過程における当事者の参加と意見表明を求める国際人権の原則に明確に反します。
そもそも人権の制限の適否は、憲法や国際人権などに照らし、人権保障の観点から判断すべきことであり、マジョリティの意見のみに従ってマイノリティの人権を制約することはあってはならないことです。さらに今回の場合、外国籍公務員による情報漏洩の可能性があるという偏見を前提としたうえで、アンケート調査が行なわれるならば、その実施自体が、差別の流布、煽動になりかねません。
6 結論
以上より、三重県知事による国籍要件復活を検討するとの発言および県民アンケートの実施を直ちに撤回することを強く求めます。
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