外国人人権法連絡会は、2026年3月2日付で茨城県が発表した「不法」就労の外国人に関する情報を市民から募集、報奨金を付与する制度に対して、この撤回を求める声明を発出しました。

本声明は大井川和彦(茨城県)知事にも送付しました。

ぜひご一読ください。

   


  

外国人への差別を助長し住民を分断する
茨城県の「通報報奨金」制度創設撤回を求める声明


茨城県知事 大井川和彦 様

2026年3月2日
外国人人権法連絡会
共同代表 田中宏・丹羽雅雄

  

 私たち外国人人権法連絡会は、外国人および民族的マイノリティの人権を保障し、人種差別を撤廃する法制度の実現に取り組んでいるネットワーク団体です。

 2026年2月18日、茨城県は新年度から「通報報奨金制度」を始めると発表しました。「不法」就労の外国人に関する情報を市民から募り、摘発につながった場合に報奨金(1万円を検討中)を支払うというものです。さらに、同県は「茨城県不法就労活動の防止に関する条例」の制定も目指すとしています。
しかし、この施策、特に通報報奨金制度は、報奨金という「カネ」までつけ、「密告」に公的なお墨付きを与えるものです。外国人は社会の一員でなく、何をしてもかまわないと、県が自ら差別を煽る公による排外主義というほかありません。

 当該制度によって外国人一般は取り締まり、密告の対象として、疑いの眼差しを向けられるようになることは明白です。住民を疑いの目で見る側と見られる側とに分断し、社会の土台である人びとの間の信頼を壊してしまうことを危惧します。

▶ 外国籍住民を差別でいっそう苦しめる制度

 そもそも「不法」就労者とありますが、国連は1975年の総会決議3449での全公式文書において、「非登録あるいは非正規移民労働者」という用語を使うよう求めています。また、国連人種差別撤廃委員会と移住労働者権利委員会は、2025年12月に発出した「外国人排斥根絶のためのガイドライン」では、非正規の状態にある移住労働者に「不法」という用語を使わないよう強く要請しています。

 実際、「不法」就労の外国人のなかには、不当解雇やパワハラ、性的搾取など苛酷な就労環境から逃げだした結果、非正規滞在状況に陥る人が少なくありません。茨城県が進めようとしている制度は、困窮している非正規滞在者を自治体等の相談支援の場から遠ざけ、逃げ場をなくし、いっそうの苦境に追いやるものです。さらには (例えば教職員や同級生の保護者によって)「あの生徒の親は不法就労らしい」と学校で密告が行なわれることにもなりかねず、それを恐れる外国人の親が子どもを学校に通わせなくなることも懸念されます。この制度は子どもの学習権も害するものになります。
 

▶ 住民を密告者に仕立て上げる制度は条約・法律違反

 茨城県知事は、「住民の中には、外国人に対するフラストレーションが大きくなっているという事実もある」とも述べていますが、今回の制度はこのような人たちのストレス解消のために、外国人を「生贄」に差し出し、小金まで提供する仕組みともいえます。加えて、SNSや動画配信を利用した収益、悪ふざけ目的による差別行為が他地域で多発していますが、それを県自らが招来、煽るものです。経済的に困っている住民同士を差別により分断する点も許されません。金目当てに地域住民を密告させるという当該システムは、取り返しがつかないほどの社会の劣化に繋がってしまいます。

 本来、人種差別撤廃条約及びヘイトスピーチ解消法が地方自治体に求めているのは、横行する差別デマに基づく根拠のない外国人に対する偏見を解消し、差別を終了させることです。逆に差別を助長する茨城県の施策は、これらの条約、法律にも違反するもので到底許されません。

▶ 住民の人権を守るべき自治体の治安機関化

 国連の自由権規約委員会は「市民でない者の規約上の地位」に関する一般的意見(15号、1986年)において、締約国はその領域内にあるすべての個人に対し、国籍の有無にかかわらず、規約が保障する権利を尊重・確保する義務があると示しています。地方自治法は、外国人も「住民」であり(10条1項)、「その属する普通地方自治体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う」と規定しています(10条2項)。同法は日本国籍や在留資格の有無を問わず、まずは地域の人びとをひとしく住民として遇することを定めているはずで、そして、地方自治体やその長は、外国人を含む、地域の住民に対し、「役務の提供をひとしく」行う任務を負っている、「全体」に対する奉仕者です(憲法15条2項参照)。

 政府・法務省も、例えば、2009年の入管法改定にあたり、非正規在留外国人に提供されてきた行政サービスは、引き続き新しい制度の下でも受けることができるとの見解を示しました(2009年6月19日衆議院法務委員会における森英介法務大臣の答弁など)。さらに政府・文科省は、在留資格がない子どもも学習権を保障され、日本国籍の子どもと同じく学校に受け入れられるとの見解も示しています(2009年7月7日参議院法務委員会など)。これらのことは、総務省が都道府県に対して、非正規在留外国人に対する「行政サービスを提供するための必要な記録に関する措置に係る各府省庁の取組状況」として43項目にわたって挙げて説明しています(2024年8月23日付事務連絡)。

 このように、この度の制度は、外国籍者を含む住民に奉仕し、人権を守るべきである地方自治体を一種の治安機関化、警察機関化するものです。

 以上より、茨城県に対し「通報報奨金」制度創設を直ちに撤回することを強く要請します。

以 上

    

clickするとダウンロードできます👉「外国人への差別を助長し住民を分断する茨城県の『通報報奨金』制度創設撤回を求める声明」(PDF版)