4月8日、自民・公明両党から「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」が参議院に提出された。
与党が、近年外国などの「出身であることを理由として……不当な差別的言動が行われ」ている事実、ならびにそれにより対象者が「多大な苦痛を強いられるとともに、当該地域社会に深刻な亀裂を生じさせている」(前文)というヘイトスピーチの害悪を認め、「喫緊の課題」(1条)であるとして許さないことを宣言する(前文)法案を提出した意義は大きい。また、与野党で協議の上、各会派一致で、今国会で成立させることをめざす姿勢も、国がヘイトスピーチ対策をとるべき事態の緊急性の点から評価しうる。
他方、差別的言動は差別の一形態であり、差別的言動をなくすためには、本来、差別全体に対して取り組む必要がある。日本も加入している人種差別撤廃条約は、ヘイトスピーチを含む人種差別を禁止し、終了させることを求めており、国連の人種差別撤廃委員会が最優先で求めているのは人種差別禁止法である。
仮に、緊急対策として、与党案のようにヘイトスピーチ対策に限定するなら、何より実効性が求められる。そのためには少なくともヘイトスピーチを違法と宣言することが不可欠である。違法としないと、地方公共団体が具体的な制限を躊躇する危険性が高い。前文で指摘されている極めて深刻な害悪を許さないなら、法治国家においては違法とすることが筋である。また、日本は自由権規約および人種差別撤廃条約により、ヘイトスピーチを違法とする国際法上の義務を負っており、かつ、その旨何度も勧告されているのである。
明確な定義規定を定めれば、違法とすることは違憲とはならない。また、禁止規定をおくとグレーゾーンの表現を適法とする危険性があるとの指摘もあるが、実効性ある措置をとれない不利益のほうが大きい。緊急対策法として、特に深刻なものに限定してでも、それらに対する実効性ある対処にすぐに取り組むことを要請する。
このヘイトスピーチ対策法は、差別のない社会を作るため、国際人権基準に合致する包括的な法制度整備に向けた第一歩として明確に位置付けるべきである。法務省も2016年度方針として「新たな人権擁護施策の推進」を掲げた背景として国連の自由権規約委員会等からの是正勧告をあげている。
定義規定については、「適法に居住する」との要件は、「不法滞在者」とされた外国人に対する差別の煽動を促す危険性がある。また、ヘイトスピーチの実態から見ると「本邦外出身者」では狭すぎ、人種、皮膚の色、世系もしくは社会的身分、または民族的もしくは種族的出身を理由とするものも対象とすべきである。さらに、実態に即して「著しく侮蔑」する場合も、「不当な差別的言動」の対象に含めるべきである。そして、「日本から出ていけ」とのヘイトを除外しないよう、「地域」社会に限定せず、社会一般からの排除を対象とすることを求める。
実効性を確保するためには、地方公共団体の責務は努力義務では足りない。人種差別撤廃条約上も、国のみならず地方公共団体も差別撤廃義務を負っているからである。
以上のほか、取組を推進する審議会の設置、定期的な実態調査の実施、被害当事者の意見の聴取、警察への人種差別撤廃教育、インターネット対策など、いくつかの点の検討を求めたい。
与野党の協議の上、この国会で、実効性あるヘイトスピーチ緊急対策法を成立させることを、私たちは強く要請するものである。