カテゴリー: 声明・要望書

卑劣な「在日コリアン虐殺宣言」年賀状を許さず、国と市に緊急対策を求める声明

*2020.1.21追記:この声明に対する賛同を集めています。第一次集約日は1月27日(月)です。賛同方法は、こちらのページをご覧ください。

*2020.1.29追記:2つ目の脅迫葉書に対して新たに、「在日コリアンに対する相次ぐ卑劣な犯罪予告を許さず、政府に緊急対策を求める声明」を発表しました。こちらも賛同を集めています。


内閣総理大臣    安倍晋三 様
法務大臣      森まさこ 様
川崎市長      福田紀彦 様
川崎臨港警察署署長 山田隆 様

今年1月6日、川崎市の多文化交流施設「川崎市ふれあい館」に、「謹賀新年 在日韓国朝鮮人をこの世から抹殺しよう。生き残りがいたら残酷に殺して行こう」と書かれた年賀状が届いたことで明らかになりました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200106/k10012237011000.html
https://www.kanaloco.jp/article/entry-236214.html

同館は川崎市が1988年に日本人と在日コリアンなど外国籍市民が交流し共に生きる地域社会を築くために設置したもので、多くの地域住民、さまざまな国籍の市民が利用し、外国籍の職員も少なくありません。

1月18日付けの神奈川新聞によると、年明けからの13日間、前年比で、子どもを中心に利用者数が508人、4分の1近く減少するなど、すでに具体的な悪影響が生じており、この脅迫葉書は多文化共生業務を妨害する犯罪行為(威力業務妨害罪)であることが明らかです。
https://www.kanaloco.jp/article/entry-245998.html

同館は、これまでも日朝日韓関係のねじれなどがある度に、「朝鮮へ帰れ」との差別的脅迫電話がかかるなど、卑劣なヘイトスピーチ、ヘイトクライムの標的とされてきました。
この脅迫葉書は、年始早々、「年賀状」という形式で、在日コリアン市民に対して虐殺を宣言して冷水を浴びせ、恐怖と孤立感、絶望の淵に叩き落とし、地域の分断、差別と暴力を煽動する極めて卑劣な行為です。これはヘイトスピーチ・ヘイトクライムであり、絶対に許してはなりません。

2016年7月相模原市で起きた障がい者多数殺傷事件のように、実際に暴力犯罪が行われる危険性も看過できず、国と川崎市は犯罪抑止、市民の安全確保に全力をあげるべきです。
また、これは、人種差別撤廃条約(第1条・2条・4条)はもちろん、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた施策の推進に関する法律」(2条・4条・7条)、さらには昨年12月12日に成立した川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例が定めるヘイトスピーチ(2条・7条・8条)であり、国と川崎市は、市民を差別から守り、差別を根絶すべく、先頭にたち、毅然として対処することが求められます。

差別をなくし、すべての人が尊重される社会をめざす私たちは、政府、川崎市および警察に下記のことを強く要請します。

  1. 政府は、直ちに今回の脅迫状を強く非難し、このようなヘイトスピーチ・ヘイトクライムを決して許さないとの声明を出すこと。
  2. 川崎市は、直ちに今回の脅迫状を強く非難し、このようなヘイトスピーチ・ヘイトクライムを決して許さないとの声明を出すとともに、川崎市ふれあい館入口に警備員を配備する等市民の安全を守る具体的な対策をとること
  3. 警察は、犯人逮捕に全力をあげること

2020年1月20日
外国人人権法連絡会 共同代表 田中 宏、丹羽雅雄
事務局長 師岡康子


<参考条文>
A.人種差別撤廃条約(抄)
(人種差別の定義)
第1条第1項
人種差別とは、人種、皮膚の色、世系又は国民的若しくは民族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう。
(締約国の基本的義務)
第2条第1項 締約国は、人種差別を批判し、あらゆる形態の人種差別を撤廃し、すべての人種間の理解を促進する政策を、すべての適当な方法により遅滞なく、遂行する義務を負う。このため、各締約国は、個人や集団、組織に対する人種差別行為・実行にたずさわらず、また、国・地方のすべての公的当局・機関がこの義務に従って行動するよう確保する義務を負う。
<中略>
(d)各締約国は、状況により必要とされるときは立法を含むすべての適当な方法により、いかなる個人や集団、組織による人種差別も禁止し、終了させる。
<中略>
(人種的優越又は憎悪に基づく思想の流布、人種差別の扇動等の処罰義務)
第4条 締約国は、人種的優越や、皮膚の色や民族的出身を同じくする人々の集団の優越を説く思想・理論に基づいていたり、いかなる形態であれ、人種的憎悪・差別を正当化したり助長しようとする、あらゆる宣伝や団体を非難し、また、このような差別のあらゆる煽動・行為の根絶を目的とする迅速で積極的な措置をとることを約束する。

B.「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた施策の推進に関する法律」(抄)
(定義)第2条
この法律において、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」とは、専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの(以下この条において「本邦外出身者」という。)に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し又は本邦外出身者を著しく侮蔑するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう。
(国及び地方公共団体の責務)
第4条1項 国は、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組に関する施策を実施するとともに、地方公共団体が実施する本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組に関する施策を推進するために必要な助言その他の措置を講ずる責務を有する。
2項 地方公共団体は、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、当該地域の実情に応じた施策を講ずるよう努めるものとする。
(啓発活動等)
第7条第1項
国は、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消の必要性について、国民に周知し、その理解を深めることを 目的とする広報その他の啓発活動を実施するとともに、そのために必要な取組を行うものとする。
2項
地方公共団体は、国との適切な役割分担を踏まえて、当該地域の実情に応じ、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消の必要性について、住民に周知し、その理解を深めることを目的とする広報その他の啓発活動を実施するとともに、そのために必要な取組を行うよう努めるものとする。

C.川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例(抄)
(定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
<中略>
⑵ 本邦外出身者に対する不当な差別的言動 本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(平成28年法律第68号。以下「法」という。)第2条に規定する本邦外出身者に対する不当な差別的言動をいう。
(人権教育及び人権啓発)
第7条 市は、不当な差別を解消し、並びに人権尊重のまちづくりに対する市民及び事業者の理解を深めるため、人権教育(人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(平成12年法律第147号)第2条に規定する人権教育をいう。)及び人権啓発(同条に規定する人権啓発をいう。)を推進するものとする。
(人権侵害による被害に係る支援)
第8条 市は、インターネットを利用した不当な差別その他の人権侵害による被害の救済を図るため、関係機関等と連携し、相談の実施、情報の提供その他の必要な支援を行うものとする。

マイノリティの人権と尊厳を傷つける「嫌韓」煽動に抗議する声明

2019年9月12日、外国人人権法連絡会、移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)、人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)、のりこえねっとの4団体で「マイノリティの人権と尊厳を傷つける「嫌韓」扇動に抗議する声明」を発表し、同日、衆議院第二議員会館で記者会見を行ないました。

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マイノリティの人権と尊厳を傷つける「嫌韓」煽動に抗議する声明

私たちマイノリティの人権保障と反差別に取り組む NGO は、昨今の韓国への日本政府の対応や、それと連動した報道や出版が、日本社会の中にある「嫌韓感情」を焚き付け、在日コリアンをはじめ、日本に暮らす移民やマイノリティの人権と尊厳を脅かしていることに、深い憂慮を抱いています。
日本と朝鮮半島の歴史的な結びつきを背景に、日本社会には、百万を超える在日コリアンやコリアン・ルーツの人びとが暮らしています。そうした人々の多くは、今、この社会を覆う「嫌韓」ムードや、それにもとづくテレビや出版物、インターネット・ SNS あるいは日常生活における差別的な発言・振る舞いに傷つけられ 、テレビやネットを見ることができなくなったり、 SNS 発信もできなくなるなど恐怖や悲しみを感じながら暮らしています。また、「親日/反日」のような単純な二分法で「日本」に忠誠を迫る言説は、それ以外のマイノリティにも生きにくさを感じさせています。

今回の「嫌韓感情」の急速な悪化の背景の一つとなった韓国での徴用工裁判における大法院判決は、日韓政府の戦後処理のあり方に疑義を突きつけるものでした。植民地下の人びとに多大な苦痛と被害を与えた日本は、この問題に率先して向き合う必要があります。実際、日本政府はこれまで、 村山首相談話、日韓共同宣言を公にし、2010 年の菅首相談話では、「 植民地支配がもたらした多大の損害と苦痛に対し 、」「 痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明」しました。これらによる政府見解は、現在でも有効とされています。
また日本政府は、従来から、日韓条約締結にともなう請求権協定によっては「個人請求権は消滅していない」という立場に立っています。にもかかわらず、その点はほとんど報道せず、韓国の対応ばかりを批判する政府やマスメディアの姿勢は大いに問題があります。

「過去の歴史をいつまで批判されるのか」という 反応もみられます。しかし、本人の意に反して徴用され、苦役に従事した上、長年にわたり何の補償もなく放置されてきた当事者及びその家族にとって、これは決して「終わった」出来事ではありません。

「徴用」にまで至った植民地支配下の労働移動は、労働者の権利や尊厳を顧みず、過酷な労働を強いました。これは、現在の外国人技能実習制度にも通底する問題です。つまり「徴用」は、この点でも、現在を生きる「われわれ」にとっての問題でもあります。私たちは、支配された人々の人権と尊厳を最も残忍な形で奪った植民地支配とアジア太平洋戦争の 歴史、それを曖昧な形で処理してきた戦後の対応への真摯な反省を通じてこそ、マイノリティの人権と尊厳が保障される社会を、今ここにつくることができると考えています。同時に、この深刻な被害を引き起こした人権問題を共同で解決しようとすることこそが、日本と韓国、ひいては東アジアの平和の基礎となるべき、未来志向の作業であるはずです。

本来、マイノリティの人権と尊厳にかかわるはずの問題が、国と国の対立の問題としてばかり扱われることによって、十分な事実理解を伴わない感情的な反応が生み出され、特定の国民・民族を貶め、差別を 煽るヘイトスピーチ、ヘイトクライムとして表出されています。それらを日本政府、日本社会が容認し、「正統」な言論として拡散されている事態を、まずもって終わらせる必要があります。このような立場から、日本社会における「嫌韓」煽動に抗議し、マイノリティの安心・安全を早急に回復するよう求めます。

2019年 9 月 12 日
NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク
外国人人権法連絡会
人種差別撤廃NGO ネットワーク (ERD ネット)
のりこえねっと

「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案」に関し、不当な差別を受けないための立法措置に向けた規定を追加し修正することを求める NGO共同要請書簡

内閣総理大臣 安倍晋三 殿、 法務大臣 山下貴司 殿

日本においては、人手不足に対応するために外国人労働者が急増しており、2020年東京オリンピック・パラリンピックを機会に多くの外国人が日本を訪れることも見込まれております。

このように日本に滞在する外国人や外国にルーツを持つ人びとの大幅な増加が見込まれ、かつ、外国人労働者に対する政策も大転換を迎えているにも拘らず日本には、多くの国々と異なり、人種、民族、肌の色、出身国、宗教等による不当な差別的取り扱いを禁止する法律がありません。

外国人受け入れについて日本が転機を迎えるにあたっては包括的な政策の導入が必要ですが、その基礎となる重要な施策の一つが人種差別を防止・禁止する法律です。また、人種差別を撤廃する政策をとることは日本政府の国際法上の責務でもあります。

外国人等が不当な差別や排除から守られることは、当事者である外国人等にとっての基本的人権であることは言うまでもありません。不条理な差別や排除を経験すると、人の心は深い悲しみを経験し、屈辱を感じ、その尊厳は傷つき、「多大な苦痛を強いられ」ます(「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」、いわゆる「ヘイトスピーチ解消法」前文)。

そして、ヘイトスピーチをはじめとする差別は、社会に憎しみと暴力を蔓延させて「社会に深刻な亀裂を生じさせてい」ます(同上、ヘイトスピーチ解消法前文)。外国人等が不当な差別や排除から守られる日本社会で共生できることは、日本社会にとっても極めて重要かつ有益なのです。

そこで政府に対し、下記の規定を入管法改正案に修正して追加するよう求めます。

<入管法改正案を修正して追加すべき規定案>
●政府は、外国人がその人種、民族、肌の色、出身国、宗教等により不当な差別を受けることなく日本社会で共生していくための施策を講じるとともに、そのために必要な法制上の措置については、この法律の施行後二年以内を目処として講ずるものとする。


賛同団体【50音順】
(16団体、2018年12月4日正午現在)

Anti-Racism Project(ARP)
特定非営利活動法人 移住者と連帯する全国ネットワーク
外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会(外キ協)
「外国人・民族的マイノリティ人権基本法」と「人種差別撤廃法」の制定を求める連絡会(外国人人権法連絡会)
特定非営利活動法人 コリアNGOセンター
在日大韓基督教会 在日韓国人問題研究所(RAIK)
差別・排外主義に反対する連絡会
公益社団法人自由人権協会
人種差別撤廃NGOネットワーク
特定非営利活動法人 名古屋難民支援室 [1]
NPO法人難民自立支援ネットワーク(REN)
日本カトリック難民移住移動者委員会
反差別国際運動
国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ
認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ
ヘイトスピーチとレイシズムを乗り越える国際ネットワーク

[1] 特定非営利活動法人名古屋難民支援室については、「今回の入管法改正において、問題となっている問題点、すなわち、技能実習生の大多数が最低賃金法違反、無視の過酷な就労を強いられ、現実に差別を受けている現状が指摘されていることを深く反省し、真摯に受け止めるべきことから、本件提案は、不可欠の課題であり、本件緊急提案を行うものである。」という理由付きでの賛同である。

「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例案」に対する声明

東京都は本年2018年9月19日、都議会に「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例案」(以下、都条例案)を提出した。
私たちは、東京都が「様々な人権に関する不当な差別と許さない」ことを掲げる人権条例を制定すること、その中に、差別禁止条項を含む「多様な性の理解の推進」に関する章が設けられたこと、及び、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消にむけた取組の推進に関する法律」(以下、解消法)4条2項に基づいて地方公共団体が実施する、不当な差別的言動の解消に取り組む章が設けられたことを歓迎する。都道府県レベルではじめて解消法の実効化を条例制定の形で行うものであり、東京都の取組は国及び他の地方公共団体の取組を促進することを期待したい。解消法施行後2年以上過ぎても、実効化のスピードが遅く、被害者に終わりの見えない苦痛と恐怖を日々もたらしている現状を切り崩す一助となりうる。
他方、条例案の内容は、本年6月に発表された「条例案概要」や、先行例である「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」(以下、大阪市条例)、京都府などの公の施設等の利用に関するガイドラインになどと比べても、後退あるいはあいまい化している箇所が散見される。
私たちは、以下の点について、修正ないし条文解釈の明確化することにより、被害者救済のため実効性があり、かつ、濫用の危険性を防止する仕組みのある、よりよい都条例を制定することを切望するものである。

  1. 前文に、立法事実及び国際人権諸条約を入れる。
  2. 目的に、都による「いかなる差別も受けることがない」社会の実現が含まれることを明確化する。
  3. 3章に、2章の性的マイノリティに対する差別とパラレルに、人種等を理由とする差別的取扱い及び差別的言動の禁止条項、および都の基本計画制定義務など基本法的条項をいれる。
  4. 解消法が地方公共団体に求める相談体制整備(5条)、教育の充実(6条)、ネット対策及び差別の実態調査(附帯決議)を条項に入れる。
  5. 「不当な差別的言動」の定義(8条)を、解消法2条ではなく、人種差別撤廃条約1条1項の定義とする。
  6. 公の施設の利用制限の要件、効果、手続き等の基準を条文に入れる(11条)。
  7. 「不当な差別的言動」と認定された場合は、その概要は必ず公表するものとし、氏名若しくは名称の公表についての基準を条文に明記する(12条)。
  8. 審査会の委員は、人種差別撤廃に関する学識経験者の中から選び、必ずマイノリティ当事者を入れるようにし、都議会の同意を条件とする。委員の人数は20人以上とする(15条)。
  9. 都知事は審査会の意見を尊重すべきとの条項を入れる。
  10. 審査手続きにおいて表現行為者に意見を述べる機会を保障する。

理由はそれぞれ下記のとおりである。

1. 前文に、現在都内で多いときは週1ペースでヘイトデモ・街宣が行われ、また、外国籍住民の4割が入居差別、4人に1人が就職差別を経験するなど法務省の2017年3月発表の調査結果でも明らかになっている深刻な人種差別などの実態を、立法事実として示すべきである。
オリンピック憲章以前に、自由権規約や人種差別撤廃条約など、日本が締約国として履行義務がある諸条約があり、その履行が不十分と国際人権諸機関から何度も勧告されている現実から出発すべきである。

2.「条例案概要」では「あらゆる人がいかなる種類の差別も受けることがなく、人権尊重の理念が広く都民に一層浸透した社会を実現」となっていたが、都条例案では「いかなる種類の差別も許されないという、……人権尊重の理念が広く都民等に一層浸透した都市となることを目的」との表現になっている。理念の浸透は手段の一つであり、目的は、都による「いかなる差別も受けることがない」社会の実現であることを明確にすべきである。

3.都条例案は、ヘイトスピーチ対策のみを取り上げているが、ヘイトスピーチは人種差別の一部であり、人種差別全体に対する取組が不可欠である。オリンピック憲章も人種差別撤廃条約も人種差別全体の撤廃を求めている。
他方、都条例案は、性的マイノリティに対する差別については「不当な差別」全体の解消の推進を趣旨とし(3条)、「不当な差別的取扱い」の禁止規定を置き(第4条)、差別解消に向けての「基本計画」制定と必要な取組推進を都の責務としている(5条)。
都条例案は、解消法の実効化と位置付けられているが、解消法自体に基本法的条項がない。そのため東京都自らが、その旨を2016年9月13日付け要望書で法務省人権擁護局に指摘している。解消法に基本計画などの見通しがないことが、実効化が進まない一因となっている。国がそれらを示さない以上、都民の尊厳と安全に対し責任を持つ東京都が、性的マイノリティに対する差別対策と同様に、基本計画などを示すべきである。
また、大阪市条例には禁止条項がなく、拡散防止措置及び公表制度の主目的が啓発にとどまっており、特にネット上のヘイトスピーチに対しては実効性が弱いことは大阪市長も問題視している。差別撤廃の実効性のためには、最低限禁止規定と何らかの制裁規定が不可欠である。本年8月の国連人種差別撤廃委員会でもヘイトスピーチ、ヘイトクライムを含む包括的な差別禁止法の制定が勧告されている(para.8,14(b))。
この点、都条例案では性的マイノリティの不当な差別的取扱いについて禁止条項を入れているのだから、人種的マイノリティに対する差別的取扱いについて禁止しない理由はないはずである。
差別的言動については、表現の自由の過度の規制とならないよう、深刻な場合に限定した明確な定義と、第三者機関を置くべきである(東京弁護士会人種差別撤廃モデル条例案参照)。

4.都条例案では、解消法の求める基本的施策のうち啓発の推進(第10条)しか条文にないのは解消法の実効化としても不十分である。

5.都条例案では解消法第2条の定義を引用しており、対象が適法居住要件つきの在日外国人若しくはその子孫と非常に限定されている。本来、対象を人種差別撤廃条約第1条1項の定義する対象とすべきである。もし、解消法の定義を使うのであれば、最低限、川崎市の「公の施設利用許可に関するガイドライン」のように、衆参両院の附帯決議が、対象は解消法2条の規定するものに限定されないとしたことを示し、特段の配慮が必要である旨、明記すべきである。特に適法居住要件は、人種差別撤廃条約違反であり、今回の人種差別撤廃委員会による勧告(para13、14)でも批判されている。

6.「条例案概要」では、公の施設利用を不許可とする2つの要件(いわゆる言動要件と迷惑要件)の両方を充たすことが必要と明記されていたが、都条例案では要件が知事一任となっている。しかし、集会の利用制限は、憲法上重要な集会の自由の制限であるため、必要最小限の制限かつ公正な手続きによることが必要であり、過度の制限、濫用の危険性を防ぐため、都議会で議論の上、条文で定めるべきである。
また、要件は、言動要件のみにすべきであり、仮に両方を定めるなら、京都府、京都市のように選択的にすべきである。両方を必要とした川崎市ガイドラインでは要件が厳しすぎて実効性を確保できないことがすでに明らかになっている。
手続は、都民が審査を申請できるようにし、審査会(14条)の調査審議の対象とすべきである。

7.抑止の実効性確保のためには、悪質な場合には氏名もしくは名称を公表することが不可欠である。他方で濫用を防ぐ必要もあるため、知事に一任するのではなく、氏名などの公表についての基準を定め、公表内容についても事前に審査会の意見を聴くよう条例で定めるべきである。
また、都条例案12条は、ヘイトスピーチと認定した場合に、知事の判断で、概要も公表しないことができるように読めるが、それでは条例により認定された結果の全体像も不明確になってしまい、制度の意義も減殺させる。

8.審査会の委員は知事が委嘱することとなっているが、公正性、知事からの独立性を担保するために、大阪市条例と同様に都議会の同意を条件とすべきである。
審査会の委員の条件は、単なる学識経験者では不適切であり、ヘイトスピーチを含む人種差別撤廃に関する学識経験者とすべきである。
また、被害者の意見を聴くことは認定判断にとって不可欠であるから、審査会の委員には必ずマイノリティを入れるべきであり、その旨を東弁モデル条例案のように条項として明記すべきである。
人数については、大阪市の審査会の5人の委員による審査では、審査申出に対して1年以上経っても結論がでていないものもあり、人員が足りないことが明らかになっている。大阪市の約4倍もの人口を有する東京都の委員が5人では機能しないことが最初から明らかであり、最低限大阪市の4倍の人員は不可欠と考える。

9.審査会の意見に法的強制力がないのはやむを得ないが、都知事がその意見を尊重することを担保する条項を入れるべきである。例えば審査会の意見と違う決定をする場合は、その理由をつけて審査会に報告する制度などを導入すべきである(東弁モデル条例案参照)。

10.適正手続きの保障の観点から、差別的言動を行ったと思料される者の弁明の機会を保障すべきである(大阪市条例の第9条2項参照)。

なお、いかなる差別も許さないことを理念とする人権条例をつくるにあたっては、東京都が、同時に、朝鮮学校に対する補助金の再開(人種差別撤廃委員会の2014年勧告para.19)など、自らが人種差別撤廃条約2条1項cにより「政府(国及び地方)の政策を再検討し、および人種差別を生じさせ又は永続化させる効果を有するいかなる法令も改正し、阻止し又は無効にするための効果的措置をとる」義務を誠実に履行することを強く求めることを付言する。

2018年 9月 26日
外国人人権法連絡会
共同代表 田中宏 丹羽雅雄

 

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外国人人権法連絡会2018年総会記念シンポジウム アピール

2018年4月14日に開かれた外国人人権法連絡会2018年総会記念シンポジウムで、以下のアピール文が朗読され、参加者一同で確認しました。


外国人人権法連絡会2018年総会記念シンポジウム アピール文

2016年6月にヘイトスピーチ解消法が施行された。同年暮れには、政府による外国人の人権状況に関する調査が実施され、深刻な入居差別や就職差別の実態の一端が明らかとなった。いずれも、日本においては初めて実現したものであり、人種差別撤廃条約が求める締約国の責務を履行するためのささやかな第一歩といえる

しかし、ヘイトデモ・街宣活動は今も全国各地で横行している。公人の差別発言も後を絶たない。2018年2月には、朝鮮総聯中央本部の銃撃という、衝撃的な手段によるヘイトクライムが発生したが、政府はこれを非難する意思を何ら表明しなかった。

いま求められているのは、ヘイトスピーチ解消法の実効化のみならず、人種差別を明確に禁止し、被害者が法的救済を受けることを可能にするとともに、国及び地方自治体が差別を解消するための実効性ある施策を講じるための根拠法となる、人種差別撤廃基本法の制定である。それは、これまで繰り返し人種差別撤廃委員会より勧告されてきたとおり、人種差別撤廃条約の締約国である日本の義務である。

政府はいまだ、立法に消極的な姿勢を変えていない。2017年にも、政府は、日本の人権状況に対する普遍的・定期的審査(UPR)のために国連人権理事会に提出した報告書において、憲法や各種法令により差別を禁止しているなどと従来の立場を繰り返した。2018年3月に採択されたUPRの結果文書では、多数の国から、人種差別を含む差別を禁止する包括的な差別禁止法の制定が勧告されたが、政府は受け入れなかった。本日の講演でも、日本の差別撤廃政策が国際人権水準からかけ離れていることが改めて明らかになった。

この8月に行われる人種差別撤廃委員会による日本審査においても、条約上の義務を履行しているかという観点から、厳しく日本政府の姿勢が問われることになるだろう。

私たちは、マイノリティの権利と尊厳が守られる社会の実現に向けて、次の一歩を進めるため、日本政府と国会に対し、ヘイトスピーチ解消法の実効化及び人種差別撤廃基本法を速やかに制定することを改めて強く求める。

また、これを実現させるために、マイノリティおよび平等を求めるすべての人々と連帯し、市民社会に働きかけ、力強く取り組んでいくことをここに決意する。

2018年4月14日
外国人人権法連絡会2018年総会 記念シンポジウム
「人種差別撤廃基本法を日本で実現させるために」参加者一同

Statement :We Protest against Shooting at the Headquarters of the General Association of Korean Residents in Japan and Call on the Government of Japan to Take Firm Responses

28 February 2018

Japan Network towards Human Right Legislation
for Non-Japanese Nationals and Ethnic Minorities

Solidarity Network with Migrants Japan (SMJ)

NGO Network for the Elimination of Racial Discrimination Japan (ERD Net)

NORIKOE Net

Human Rights Now

According to media reporting, two men rode in a van up to the gate of the headquarters of the General Association of Korean Residents in Japan (Chongryon), in Chiyoda Ward, Tokyo, and fired several shots by the handgun at the building around 4:00 a.m. on 23 February. The two suspects are identified as Satoshi Katsurada (right-wing activist) and Yoshinori Kawamura (member of a right-wing association). Both of them were arrested on suspicion of vandalism and reportedly admitted to the charges. According to the Public Security Bureau of the Metropolitan Police Department, it is reported, Katsurada told the police that “A series of missile testing by North Korea breached my limit of patience” and that he had planned to ram the car into the headquarters.

Katsurada was an advisor to an organization that had conducted rallies and street propaganda activities involving hate speech in 2013 in Trusuhashi, Osaka, one of the areas with the largest Korean population in Japan, and led the activities of the organization. He has also made hateful remarks again and again in hate rallies and street propaganda activities targeting Koreans in Japan with their roots in the Korean Peninsula, whether in the northern or southern parts; for example, in a rally on 25 December 2016 entitled “Put an End to the Relationship with South Korea! Mass Rally of Rage by the Japanese Nation”, he said, “We, Japanese, will not succumb to any pressure by South Koreans in Japan, anti-Japan groups and futei senjin [literally “lawless and defiant Koreans”, a historical term to denigrate Koreans before the end of the World War II]”. The assault at the Chongryon is nothing but “hate crime” (crime motivated by discriminatory thinking) based on discriminatory and xenophobic feelings against Koreans in Japan.

Upholding a society where human rights and dignity of all is guaranteed, and as members of such a society, we hereby raise our voice of protest that this kind of hate crime is not permissible at all.

We strongly urge the Government of Japan to take firm responses to the criminal act by taking the following measures.

  1. Immediately issuing a statement to condemn the incident

The Government should issue a statement condemning the incident as an act of hate crime based on discriminatory and xenophobic feelings against Koreans in Japan. The Government should also announce that it would take firm measures against criminal acts based on discriminatory and xenophobic feelings against Koreans in Japan and other minority groups.

The Act for the Elimination of Hate Speech (the Act on the Promotion of Efforts to Eliminate Unfair Discriminatory Speech and Behavior against Persons Originating from Outside Japan of 2016) admits that hate speech has imposed tremendous pain and suffering on victims and caused serious rifts in the local community (Preamble) and that the elimination of hate speech is a pressing issue (Art. 1), providing that the national government has the responsibility to implement measures to eliminate it (Art. 4 (1)). The criminal act conducted by the two men was an assault using the ultimate act of violence, which is shooting, being far more serious than verbal attacks. In the light of the sufferings among Koreans in Japan, accompanied by enormous fear and hopelessness, as well as the seriousness of social rifts caused by the message that Koreans in Japan are not members of the same society and that it is acceptable to kill or wound them, the Government should fulfill its responsibility under the Act by condemning the crime immediately and explicitly.

  1. Investigating the incident as a form of hate crime and imposing severe punishment if it is found to be motivated by discriminatory feelings

A number of countries, including European countries and the United States, have developed legislation to deal with hate crime by imposing heavier sanctions on such offences, which are motivated by discriminatory feelings against particular minority groups, than regular offences. In these countries, criminal acts that may be motivated by discriminatory feelings against particular minority groups, such as the one referred to in the present statement, will be subjected to detailed inquiries into motivations as well and be punished with heavier sanctions than the ones imposed on regular offences. Although Japan does not have hate crime legislation, the Government has reported to the UN human rights monitoring bodies that it is possible to take the pernicious nature of motivations and impose heavier sanctions on this kind of crime. If it is found that the shooting was motivated by discriminatory feelings against Koreans in Japan, the offence should be treated as hate crime and be subject to heavier punishment than ordinary acts of vandalism.

  1. Preventing the reoccurrence of hate crime by xenophobic groups

Contrary to the dominant story that Chongryon is preparing for terrorism, Japan has experienced a series of hate crime cases committed by xenophobic groups or individuals who have xenophobic ideologies in recent years. A series of hate crime cases against Korean school students occurred in the 1990s, which made it impossible for them to wear ethnic-style uniforms. Since the 2000s, when rallies involving hate speech started to be organized, such cases have occurred more frequently, including the assaults on the Korean school in Kyoto (December 2009 – March 2010), the assault on the Korean high school in Kobe (January 2014), the arson attack on the Korean Cultural Center in Shinjuku, Tokyo (March 2015) and the arson attack on a branch of the Io Credit Association in Nagoya (May 2017). Suspected cases of hate crime have kept on occurring this year, including the incident in which the windows of a facility of the Korean Residents Union in Japan have been broken.

The shooting directly demonstrated the danger of criminal acts committed by xenophobic groups or individuals who have xenophobic ideologies. The police should seek to prevent the occurrence of hate crime by strengthening crackdowns on individuals and groups who express hatred and xenophobic ideologies against particular ethnic groups.

  1. Adoption of the legislation against racial discrimination and hate crime

The case of hate crime referred to in the present statement was committed by the individuals who have repeatedly made hateful remarks, which bears eloquent testimony to the fact that lack of measures against hate speech can directly result in hate crime and violence. It also highlighted the insufficient effect of the Act for the Elimination of Hate Speech without provisions to prohibit and sanction hate speech.

Japan does not have laws that prohibit racial discrimination itself; awareness of the unacceptable nature of racial discrimination remains to be low and the actual situation of racial discrimination in Japan is hardly taught in educational settings. After the shooting, there were some reactions that “[the shooting was] conducted by Koreans in Japan themselves” or that “Chongryon is worth being targeted”. The shooting and these reactions were partly caused by the weak social norms against racial discrimination. With a view to preventing cases of hate crime from occurring again, the Government should take measures to make the Act for the Elimination of Hate Speech effective and to promptly adopt the legislation against racial discrimination and hate crime.

In addition, we also call on the media to take it seriously that the incident, which demonstrate the escalation of xenophobic ideologies into the actual shooting, has made a number of Koreans in Japan and others with their roots in the Korean Peninsula, whether in the northern or southern parts, feel terrified and insecure. The media should inquire into and report on the background of the shooting and make it clearer that they will never tolerate hate crime.

We will keep on making efforts to create a society where human rights and dignity of all is guaranteed and everyone can live with a sense of security.

 

声明文「朝鮮総聯中央本部への銃撃事件にたいして私たちは抗議の意を表明し、日本政府に厳正な対応を求めます」

報道によれば、2月23日午前4時頃、東京・千代田区にある在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総聯)中央本部の前に、男2人が車で乗りつけ、建物に向かって拳銃の弾を数発撃ち込む事件が発生しました。犯人は右翼活動家の桂田智司容疑者と右翼関係者の川村能教容疑者であり、二人は建造物損壊容疑で逮捕され、容疑を認めているといいます。警視庁公安部によると、桂田容疑者は、「北朝鮮による相次ぐミサイル発射に堪忍袋の緒が切れた」と供述し、発砲後に中央本部に車で突入するつもりだったとのことです。

桂田容疑者は、2013年に日本最大の在日コリアン集住地域である大阪の鶴橋においてヘイトスピーチデモ・街宣を行なった団体の顧問として活動を主導し、「われわれ日本人はいかなる在日韓国、反日勢力、不逞鮮人どもの圧力に屈しない」とスピーチする(2016年12月25日の「韓国とは絶縁せよ!日本国民怒りの大行進」にて)など、南北を問わず朝鮮半島にルーツを持つ在日コリアンにたいするヘイトデモ・街宣においてヘイトスピーチを繰り返してきた人物であり、今回の事件は、在日コリアンにたいする差別意識・排外主義にもとづく「ヘイトクライム」(差別的動機に基づく犯罪)にほかなりません。

私たちは、あらゆる人びとの人権と尊厳が保障される社会を擁護し、またそうした社会を構成するメンバーとして、このようなヘイトクライムは決して許されないという抗議の意をここに表明します。

私たちは政府にたいして、以下のとおり、今回の犯罪行為に厳正に対応することを強く求めます。

1.今回の事件を非難する声明を直ちに公表すること

政府は今回の事件にたいして、在日コリアンへの差別意識・排外主義に基づくヘイトクライムとして、事件を非難する声明を公表すべきです。また、在日コリアンをはじめとするマイノリティ集団への差別意識・排外主義に基づく犯罪行為にたいしては厳格に対処していくことを、あわせて言明すべきです。

ヘイトスピーチ解消法は、ヘイトスピーチが被害者に多大な苦痛を強い、社会に深刻な亀裂を生じさせているとし(前文)、解消が喫緊の課題であることに鑑み(1条)、国は解消のための措置を講ずる責務を有すると定めています(4条1項)。今回の犯罪は、言動による攻撃よりさらに深刻な銃撃という究極の暴力による攻撃です。在日コリアンの受ける多大な恐怖、絶望感を伴う苦痛と、在日コリアンを同じ社会の構成員としてみず、殺傷してもいい対象だというメッセージのもたらす社会の亀裂の深刻さを踏まえ、同法の責務としても直ちに非難の態度を明確にすべきです。

2.今回の事件をヘイトクライム事件として捜査し、差別的動機が認められる場合には厳罰を科すこと

欧米等多数の国においては、特定のマイノリティ集団への差別的動機に基づく犯罪であるヘイトクライムにたいして、通常の犯罪よりも加重に処罰するヘイトクライム法制が整備されており、本件のような特定のマイノリティ集団への差別意識に基づくことがうかがわれる犯罪については、動機についても詳しい調査を行ない、通常の犯罪よりも厳格に処罰しています。日本においては、ヘイトクライム法が制定されていませんが、政府は国連人権監視諸機関にたいし、動機が悪質な場合には斟酌して重く処罰できる、と報告しています。本件においても、在日コリアンへの差別的動機を認定した場合には、通常の建造物損壊事件に比べて、ヘイトクライムとして刑罰を加重すべきです。

3.排外主義団体によるヘイトクライム再発の防止

日本社会には、朝鮮総聯がテロを準備しているかのような言説が流布されていますが、実際に近年連発しているのは、日本の排外主義団体あるいは排外主義思想を持つ者によるヘイトクライムです。1990年代、朝鮮学校の生徒たちにたいするヘイトクライムが続発したため、生徒たちが民族衣装の制服を着ることができなくなってしまいました。さらに2000年代にヘイトデモが行なわれるようになって以降、2009年12月から2010年3月にかけての京都朝鮮学校襲撃事件、2014年1月の神戸朝鮮高級学校襲撃事件、2015年3月の新宿の韓国文化院放火事件、2017年5月のイオ信用組合名古屋市大江支店放火事件等と頻発しています。また、今年に入ってからも、福岡県直方市にある在日本大韓民国民団の施設でのガラスが割られるなどのヘイトクライムをうかがわせる事件が発生しています。

今回の事件は、排外主義団体あるいは排外主義思想を持つ個人によって引き起こされる犯罪の危険性を端的に示すものであり、警察は、特定の民族への憎悪や排外主義的な思想を表明する個人・団体の活動の取り締まりを強化し、ヘイトクライムの発生防止に努めるべきです。

4.人種差別禁止法およびヘイトクライム法の制定

今回のヘイトクライムはヘイトスピーチを連発していた人により起こされたものであり、ヘイトスピーチを放置するとヘイトクライム、暴力へ直結することを如実に示しました。またヘイトスピーチ解消法には禁止規定、制裁規定がなく、実効性が弱いとの問題点が浮き彫りになりました。

日本には人種差別それ自体を禁じる法律はなく、人種差別は許されないという社会的認識も低く、また、日本における人種差別の実態について、教育現場で教えられることはほとんどありません。今回の事件の背景、および事件後に「在日朝鮮人による自作自演」「総聯だから仕方ない」といった反応が散見される背景には、「人種差別を禁止する」という社会規範が弱いことにも原因があります。今後のヘイトクライムの発生を防止するためにも、政府は、ヘイトスピーチ解消法を実効化し、さらに人種差別禁止法およびヘイトクライム法を速やかに制定すべきです。

また、私たちは、報道機関においても、排外主義的な思想が実際の銃撃にまで至った今回の事件が、南北を問わず多くの在日コリアンや朝鮮半島にルーツをもつ人びとを恐怖や不安に陥れていることを踏まえ、その背景を取材、報道し、ヘイトクライムを決して容認しないという立場をいっそう明確にすべきだ、と考えます。

私たちは、この社会に暮らすすべての人びとの人権と尊厳が保障され、誰もが安心して暮らせる社会の構築にこれからも力を注いでいく所存です。

2018年2月28日
外国人人権法連絡会
移住者と連帯する全国ネットワーク
人種差別撤廃NGOネットワーク
のりこえねっと
ヒューマンライツ・ナウ


※2018年3月31日に賛同を締切りました。ご賛同いただいたみなさま、ありがとうございました。

賛同者一覧(2018年4月1日10:30現在・順不同):個人412筆、団体42筆 計454筆

【個人】平井美津子 岩脇 彰 Megumi Komori 武藤一羊 佐々木玲子 小池 洋子 崔江以子 花村健一 中村一成 長谷川和男 kannari ayako 山本薫子 田中雅子 坂元ひろ子 青木有加 佐野通夫 高賛侑 阿部太郎 尾澤邦子 金 尚均 矢﨑暁子 渡辺美奈 松本浩美 金 千佳 森千香子 林明雄 西川小百合 榎本 譲 寺田 晋 橋本 至 成尚旗 旗手明 木村友祐 柴崎温子 前田朗 馬場詩織 呉山 美貴 宮下萌 郭基煥 北川かおり 金 栄 平野恵子 東城輝夫 大橋史恵 木下啓子 西千津 尾内達也 金翔賢 伊藤 朝日太郎 朴貞任 李純怜 金 福出 松田葉子 井上雅文 李漢相 樋口直人 尾池 誠司 中川慎二 李正守 菅原 眞 橋本みゆき 金秀煥 山口智也 岩柳美子 朴 錦淑 山内英子 金京美 ムン青ヒョン 橋谷 雅 遠藤正敬 岡本朝也 池田幸代 森田和樹 Kono Yuko 李鎮和 稲田朗子 池田幹子 藤永 壯 温井立央 庵逧由香 本山央子 朴美香 清田美喜 東 晃司 阿久澤麻理子 小野政美 平田なぎさ Little Hands 粥川ひろみ 稲葉奈々子 呉永鎬 福井昌子 田井英子 福島博子 森久智江 古屋哲 石田正人 田中むつみ 高橋哲哉 澤田 真美 森本孝子 長崎由美子 奥村よしみ 福嶋常光 金朋央 松谷満 小川竜弥 山岸 素子 鄭文哲 寺尾光身(てらおてるみ) 三嶋あゆみ 青木初子 安藤真起子 朴栄致 恩地いづみ 増岡広宣 平田賢一 北澤尚子 服部光太 吉田絵理子 井口博充 リ ウォルスン 増井潤一郎 山本かほり 城山大賢 田中俊 土井桂子 田中利幸 鈴木徹一 YOUNG-SHIN, SONG 奥村 弘 池永記代美 橋本 真 新船 海三郎 山中啓子 鶴田雅英 七尾寿子 木村幸雄 松下一世 竹佐古真希 金泰崇 青木茂 高谷幸 西村直登 五郎丸聖子 金子なおか Kyung Hee Ha 柏木美恵子 杉原浩司 藤本伸樹 佐藤信行 佐竹眞明 原 信雄 竹内宏一 金性済 西岡由紀夫 韓守賢 藤井純子 西岡由紀夫 師岡康子 古賀清敬 金明秀 海津正和 石川治子 KYUNG HEE HA 中村啓二 中島純 朴 陽子 大賀あや子 佐々木 祐 阿部寛 前田かおる 小林知子 下田由子 中村証二 野上幸恵 中川龍也 原めぐみ 藤本美枝 金秀一 金 成元 大島康治 申 嘉美 馬場昭 山本眞理 金昌浩 柳田由紀子 伊東 千恵 久朗津泰秀 小野寺ほさな 鄭和瑛 琴岡 康二 takagi atuko 秋葉正二 松尾和子・哲郎 加藤武士 リョギョン 冨田 杏二 李 栄 山の手緑 今田 ゆうさく 青木理恵子 申惠手 野田祥 徐栄錫 鶴岡めぐみ 富山徳之 松浦悟郎 鄭守煥 赤井吉雄 外山理佳 野々村 耀 佐々木克己 鄭康烈 栗本知子 藤井隼人 役重善洋 乾喜美子 緒方貴穂 一戸彰晃 徐阿貴 伊藤勤也 楠木裕樹 李貴絵 竹林 隆 山田彩子 佐藤正己 沢村和世 河合知義 大下 富佐江 watanabe kenji 藤井郁子 大石忠雄 金麻衣 池允学 西村由美子 伊藤明彦 ひぐちのりこ 長谷川 清 張教之 三輪力也 軽部哲雄 田代雅美 朱 文洪 申容燮 Tsukasa Yajima 佐藤正人 田中ひろみ 斉藤日出治 鈴木まり 佐々木 香澄 安部竜一郎 柴田智悦 竹森真紀 伊藤智樹 武者小路公秀 笹田参三 藤岡美恵子 奥村悦夫 田中潤一 川本良明 趙明淑 小川玲子 安炳鎬 池田宜弘 熊谷茂樹 文優子 伊藤るり NOMURA; OSAMI 金迅野 Hirano Kazumi 松坂克世 古賀滋 魯孝錬 青木信也 伊藤哲寛 田中 泉 oohashi takeshi 葛 斗英 田中進 伊藤 敦 林 哲(リム チョル) 渡辺麻里 YAJIMA Tsukasa 梶村道子 高見元博 ノリス恵美 田太植 安原邦博 河添 誠 姜孝裕 吉川哲治 高森裕司 盛田容子 石川美加 Anne Michinori Mano 井上博之 桑原康平 松本篤周 田巻紘子 小寺隆幸 森本 孝子 岡本茂樹 中谷雄二 矢野恭子 山本すみ子 いむぼんぶ 松浪孝史 鄭光珠 三木 譲 白充 長沼 宗昭 具良鈺 竹村雅夫 清水 晴好 姜文江 宮野吉史 沢井功雄 冨田 正史 田中信幸 近藤 學 外山喜久男 村田浩司 樽井直樹 今本陽子 藤守義光 西崎雅夫 増田都子 高井弘之 田口純 高秀美 田村 ゆかり 漆原 芳郎 福井文子 師岡武男 梁英子 高橋進 朴金優綺 池田恵理子 岩木俊一 yokoi yasuo 今井和江 KEN-NYE 臼井盾 冨田 弥生 雨宮 靖行 Daiyu Suzuki KAWAMURA Tomoharu リャンデリュン ソンヘヨン 梶村美紀 藤本泰成 Masashi Sugimoto 今井貴美江 横地明美 Hiroshi Fukurai Aki Kurosawa Paul Arenson Mark Ealey 愼 民子 古賀 典夫 石橋学 木村竜太 小林はるよ 倉田徹 上野さとし 宮川緑 古澤 亨 守道子 藤井智子 Hasegaw, Sumi 金みんぢぇ Michiko Inoue 趙貞淑 馬場 昭 朴在和 山内覚 依岡 桂美 有住航 佐藤 雅一 竹本 昇 清重 伸之 吉田勉 Shiki Tomimasu Frank S. Ravitch 鄭幸子 北井大輔 宇野田尚哉 丹羽 雅代 伊崎裕之 木暮 浩 齋藤 真由美 OOKUBO masaaki 中根寧生 Yasuo YOKOI 福地一義 斎藤紀代美 影浦峡 李洋秀 山口智美 LEE Sugyong 觜本郁 澤智子 本橋哲也 川上直子 申知瑛 粟井利彦 船戸輝久 藤堂かほる 和氣康子 金 明浩

【団体】(特活)コリアNGOセンター エラスムス平和研究所 神戸国際キリスト教会 C.R.A.C. Little Hands 未来のための歴史パネル展 ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会(BLAR) 外国人住民との共生を実現する広島キリスト者連絡協議会 アプロ・未来を創造する在日コリアン女性ネットワーク カチカジャ!いばらき 在日韓国人問題研究所 外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会 第九条の会ヒロシマ 公益社団法人自由人権協会(JCLU) 「高校無償化」からの朝鮮学校排除に反対する連絡会 日本と南北朝鮮との友好を進める会 法および言語研究室(3L) 四国 労働者・民衆センター 在日大韓基督教会西南地方会社会部 日本キリスト教会 人権委員会 外国人住民との共生を実現する九州・山口キリスト者連絡協議会 すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク マイノリティ宣教センター 在日大韓基督教会関東地方会社会部 兵庫県精神障害者連絡会 差別・排外主義に反対する連絡会 NAJAT(武器輸出反対ネットワーク) 靖国・天皇制問題情報センター キリスト教事業所連帯合同労働組合 ふぇみん婦人民主クラブ ヨハンナ比較文化研究所 日本カトリック難民移住移動者委員会 日本軍「慰安婦」被害女性と共に歩む大阪・神戸・阪神連絡会 全日本建設運輸連帯労働組合 中小労組政策ネットワーク 日本キリスト教協議会(NCCJ)在日外国人の人権委員会 Peace Philosophy Centre 外国人住民基本法の制定を求める神奈川キリスト者連絡会 ベルリン 女の会 日本バプテスト連盟日韓・在日連帯特別委員会 Anti-Racism Project(ARP) 京都府・京都市に有効なヘイトスピーチ対策の推進を求める会

院内集会「今こそ人種差別撤廃基本法の実現を」part6 アピール文

2017年11月2日、参議院議員会館で開催した院内集会「今こそ人種差別撤廃基本法の実現を」part6で、以下のアピール文が朗読され、参加者一同で確認しました。


私たちは国に対し、人種差別撤廃条約に基づきヘイトスピーチをはじめとする人種差別を撤廃する政策を策定すること、その出発点として人種差別撤廃基本法をただちに制定することを求めて、これまで5回の院内集会を開いてきた。

昨年2016年4月に与党から出され、6月3日に施行された「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(ヘイトスピーチ解消法)は、人種差別撤廃基本法ではなく、在日外国人へのヘイトスピーチに限定し、禁止規定もない不十分な内容ではあるが、それでも長年の国際人権基準に合致する反人種差別法を求める闘い抜きでは実現し得なかった成果であり、私たちはこの法律を差別撤廃のために活用し、また、次の法整備につなげることを誓った。

ヘイトスピーチ解消法施行から1年半、ヘイトデモの回数、参加者数は減少し、警察のカウンターを敵視する態度はある程度是正されるなど、一定の効果は出ている。しかし、届出不要のヘイト街宣の回数は減らず、ネット上のヘイトスピーチに対してほぼ野放し状態であり、公人によるヘイトスピーチは悪化している。

国がヘイトスピーチ解消のために、解消法に基づいてやるべきことは、個別具体的なヘイトスピーチに対し即座に首相や法務大臣が公的に批判すること、プロバイダーが自主的ルールを忠実に実施してヘイトスピーチを迅速に削除するよう合意を取り付けること、学校教育において反ヘイト教育をカリキュラムに入れること、全警察官に研修を行うことなど、多方面にわたってある。私たちは、そのような具体的な要求をもって国と交渉してきたが、まだ多くが実現していない。

もとより、解消法はヘイトスピーチのみを対象とする点で限界がある。ヘイトスピーチは差別の一角であり、入居差別、就職差別などの差別的取扱いと一体としてマイノリティを苦しめており、社会的構造的な人種差別を撤廃することがその根絶のため不可欠である。それが人種差別撤廃条約の締約国としての義務でもある。

すでに今年3月に発表された法務省の「外国人住民調査報告書」により、外国籍住民に対する深刻な人種差別の全体像が明らかになっており、差別撤廃のためにはる啓発、教育だけでは足りず、法的に禁止することが不可欠である。

さらに、ヘイトスピーチ解消法は在日外国人のみを対象としているが、アイヌ、琉球・沖縄、被差別部落など、人種差別全体に取り組むことが国際的責務である。

しかし政府は、今年人種差別撤廃委員会に提出した報告書の中で、「包括差別禁止法が必要であるとの認識には至っていない」と述べ、また、国際人権高等弁務官事務所に提出した報告書の中でヘイトスピーチへの規制強化について不必要との認識を示している。

以上から、私たちは、国および地方自治体に対し、共通の課題として、ヘイトスピーチ解消法を実効化し、さらに、国際人権法上の義務に合致した人種差別撤廃政策と法整備を速やかに整備するよう、下記のことを求める。

  1. 政府は、ヘイトスピーチ解消のための基本方針、基本計画を速やかにたて、総合的に政府全体で対策を進めること。
  2. 関係各省庁はヘイトスピーチ解消法に基づき、ヘイトスピーチ解消のため実効ある施策を直ちに実行すること。
  3. 地方自治体は、ヘイトスピーチ解消法を実効化するため、人種差別撤廃条例制定などを速やかに進めること。
  4. 国は、ヘイトスピーチを含む人種差別全体の撤廃を総合的に進めるため、直ちに人種差別撤廃基本法を制定すること。
  5. 国は、2020年のオリンピック・パラリンピックまでに、国際人権基準に合致する人種差別禁止法、個人通報制度、国内人権機関など人種差別撤廃法制度を整備すること。

2017年11月2日

「今こそ人種差別撤廃基本法の実現を」第6回院内集会 集会参加者一同
外国人人権法連絡会
移住者と連帯する全国ネットワーク
人種差別撤廃NGOネットワーク
のりこえねっと
ヒューマンライツ・ナウ